「人のためになることをしたい!」と思って入った福祉業界。
しかし、いざ仕事をしてみると、実態は職場の雰囲気や人間関係で疲れたり、仕事自体が体力的、精神的につらかったり。
こんなはずじゃなかった…と辞めたくなってしまいますよね。
ただし、「絶対やめてやる!」と意気込んでも、なんの準備もせず辞めてしまうのは、失敗のもと。
そこで、本記事では現役の介護福祉士の筆者が辞めたいと考えているあなたのために下記を徹底解説します。
- 介護職の人が実際に辞めた理由や体験談
- ケース別の退職メリット・デメリット
- 退職で絶対後悔しないために抑えるべきポイント
介護職の離職率は業界的に高い?
介護職は重労働だから、離職率が高いと思われがちですが、実際のところはどうなのでしょうか。データをひも解いて見てみましょう。
介護業界と他業界の離職率の比較
まずは、厚生労働省の令和5年上半期の産業別入職率・離職率です。
このグラフを見てみると、全産業の離職率は、8.7%です。
また、産業別に見てみると、離職率が高い順から以下の通りとなります。
順位 | 産業名 | 離職率(%) |
1位 | 生活関連サービス業・娯楽業 | 15.0 |
2位 | 宿泊業・飲食サービス業 | 14.8 |
3位 | 教育・学習支援業 | 11.0 |
4位 | 不動産業・物品賃貸業 | 9.7 |
5位 | 医療・福祉 | 8.7 |
介護職が属する、「医療・福祉」は、業界別では5位で、しかも全産業の離職率と同じであることがわかります。
それほど離職率は高くない、むしろ平均的であるという事実に、意外と感じる人もいるでしょう。
介護の職種・就業形態別での離職率を比較
次に、介護施設の形態別に離職率を比較してみましょう。
(注)n値=1年間の離職者数
契約終了や更新がなく、原則各企業が定めた定年まで働ける契約のことです。
雇用形態で見ると、1年未満の離職率が、有期雇用の方が高いことがわかります。
さらに、職種別に有期雇用と無期雇用を合わせて離職の割合を見てみると、以下の表のようになります。
離職者の勤務年数
1年未満 | 1年~3年未満 | 3年以上 | |
訪問介護 | 34.3 | 22.6 | 43.1 |
サービス提供責任者 | 20.8 | 27.1 | 52.1 |
介護職員 | 34.9 | 26.4 | 38.8 |
3職種合計 | 34.4 | 25.5 | 40.2 |
この表からわかることは
- 訪問介護と介護職員は、離職した人の3分の1以上が、1年未満で辞めていて、次に多いのは3年以上である
- サービス提供責任者は、3年以上たつと離職するケースが多い
この2点ですね。
多くの介護職の人たちが、辞め時を1年〜3年で考えていそうですね。
男女別ランキング!介護職を実際に辞めた人の理由9つ
令和4年度の介護労働実態調査によると、男女別の前職をやめた理由ランキングは以下のようになっています。
男性の辞めた理由ランキング1位〜9位
順位 | 理由 | 割合(%) |
---|---|---|
1位 | 施設の運営のあり方に不満があった | 30.3 |
2位 | 職場の人間関係に問題があった | 29.6 |
3位 | 収入が少なかった | 26.4 |
4位 | 自分の将来の見込みが立たなかった | 24.2 |
5位 | 他に良い仕事・職場があった | 21.0 |
6位 | 新しい資格を取った | 8.7 |
7位 | 人員整理・事業不振等 | 8.3 |
8位 | 自分に向かない仕事だった | 6.8 |
9位 | 病気・高齢 | 3.2 |
施設の運営のあり方に不満があった
男性の辞めた理由の1位は「施設運営のあり方に不満があった」で、3割を超えています。
論理的思考な男性ほど、日頃の業務で引っかかることも多そう…
このデータからも、自分の介護理念と運営側の方針のギャップに納得できずに辞めていると考えられます。
実際、現場は人手不足の中、時間に追われながら介護事故にならないように細心の注意を払って働いています。
経営側に運営のあり方の改善策を求めても、何も動いてくれないって不満もよく聞く話です。
収入が少なかった
また、収入の少なさも男性は3位(26.4%)と高い順位にあります。これは、既婚者で家族を扶養している人が多いことが原因と考えられます。
ちなみに、女性も4位(16.6%)となっています。
介護職は重労働ながらも、その過酷さが給料に反映されていないと感じる人が多いと言われています。
実際、介護職の平均年収は、全産業の平均と比較しても低い傾向です。
現在日本では「超高齢化社会」を迎え、介護人材不足が大変問題になっています。
そこで、国も処遇改善加算など対策をとっていますが、いまだに足りないと感じる人が多いのが現状です。
ですから、待遇と仕事内容が釣り合わないと感じて、辞めている人が多いといえるのです。
女性の辞めた理由ランキング1位〜9位
順位 | 理由 | 割合(%) |
---|---|---|
1位 | 職場の人間関係に問題があった | 26.9 |
2位 | 施設の運営のあり方に不満があった | 20.8 |
3位 | 他に良い仕事・職場があった | 18.5 |
4位 | 収入が少なかった | 16.6 |
5位 | 自分の将来の見込みが立たなかった | 12.6 |
6位 | 新しい資格を取った | 10.2 |
7位 | 結婚・妊娠・出産・育児 | 10.0 |
8位 | 人員整理・事業不振等 | 6.5 |
9位 | 家族の介護・看護 | 4.2 |
男女でも辞める理由に特徴が見られますね。
ひとくちに辞めるといっても、その理由はさまざまであることもわかります。
次に、女性の辞めた理由について、その特徴は何でしょうか。
職場の人間関係に問題があった
女性が辞めた理由として1位(26.9%)にあげているのは「人間関係に問題があった」でした。
男性でも人間関係は2位(29.6%)にランクインしています。
介護の現場では、利用者に寄り添いケアするため、職員同士の連携が大切になっています。そのため、他の業種よりも人間関係が濃い環境です。
しかし、職員同士や利用者との間で意見や価値観の違いから、対立が起こりやすいのも現状です。
また、人手不足の状況で、多忙ゆえのコミュニケーション不足も考えられます。
女性はもともと周囲との協調性を重視する人が男性に比べて多い傾向があります。
ですから、人間関係のストレスは、仕事をする上でのモチベーション低下に直結しやすいと考えられます。
結婚・妊娠・出産・育児のため
さらに、女性特有の理由が、結婚・妊娠・出産・育児で10%を占めています。
同じ理由で辞めた男性は2.2%にとどまっています。
介護職は忙しく、しかも重労働なので、育児などとの両立が厳しいと考える人も多いため、女性はライフプランの変化が、仕事を辞めるきっかけになりやすいことがわかります。
一方、男性の場合は、結婚を機に給与の良い職場を探すために辞めるケースがあります。
男女共通の辞めた理由
自分の将来の見込みが立たなかった
男女とも共通であげられた理由が「自分の将来の見込みが立たなかったから」でした。
男性は4位(24.2%)、女性では5位(12.6%)にランクインしています。
今の介護職のままでは、給料が希望通りに上がらない、自分のキャリアプランが描けない、と不安に感じている人が多いことがうかがえます。
特に若い世代に、こうした不安を抱えている人が多い傾向があります。
他に良い仕事・職場があったから
こちらも男性では5位(21.0%)、女性では3位(18.5%)とランキング上位となっています。
もっといい条件の職場を探して辞めたり、介護業界ではない職種に転職したり。給料面やシフト面など、自分の希望の仕事が見つかってから辞めている人が多いことがわかります。
特に、介護業界は慢性的に人手不足です。経験者であればすぐにでも欲しいと思っている事業所は少なくありません。
こういう人は、転職サイトに登録して、働きながら次の職場を探している人と考えられます。
本記事を読んでいる人は少なくとも辞める選択肢が自身の中にあるはず。
ここからは辞めた後の選択肢としてリアルなものを4つ紹介します。
現職を辞めた後の選択肢4選
介護職を辞めた後、転職先を検討する場合、どんな選択肢が考えられるでしょうか。考えられるのは次の4つです。
- 介護職として他の施設に転職する
- 介護業界の他職種に転職する
- 介護の経験・スキルを活かせる他職種に転職する
- 介護に全く関係のない職種に転職する
では具体的に考えてみましょう。
1.介護職として他の施設に転職する
「まだ介護職としてキャリアを重ねていきたい」と思っている人におすすめの選択肢です。
介護職は、事業所のサービス形態によって、働き方が変わります。
ですから、離職理由が、夜勤が合わない、身体介護の負担が大きすぎるなどなら、サービス形態を変えることで解決できる場合があります。
さらに、他のサービス形態でキャリアを積むことで、介護スキルのバリエーションが広がる可能性があるでしょう。
2.介護業界の他職種に転職する
「介護職は辞めたいけど、介護業界には関わっていきたい」と思っている人におすすめの選択肢です。
具体的には、
- 生活相談員
- ケアマネージャー
- 福祉用具専門相談員
- 介護教員
- 介護タクシー
- 介護事務
がこれに当たります。
介護職としてのスキルや経験を活かして、より自分に合う働き方を実現することができるでしょう。
3.介護の経験・スキルを活かせる他職種に転職する
介護職の経験を活かしながら「介護業界以外で仕事をしてみたい」と思っている人におすすめの選択肢です。
例えば、
- 児童福祉施設
- 障がい者福祉施設
- 看護師・看護助手
- 保育士
- 心理カウンセラー
などがあげられます。
資格の必要な職種もありますが、介護職でのスキルを活かすことができるので、より自分にあったものが見つかる可能性があります。
4.介護に全く関係のない職種に転職する
「自分には介護業界が向いていない」と思っている人におすすめの選択肢です。
業種によっては、全くこれまでのスキルを活かせない場合もありますが、例えば
- 営業職
- 接客・サービス業スタッフ
などは、これまでの介護業界で培った接遇技術を活かすことができます。
このように離職後の選択肢を理解しておけば、転職のイメージもしやすくなるでしょう。
辞めたほうがメリットが大きい人の特徴3選
ここからは、現職を辞めたほうがメリットが大きい人はどんな特徴があるのか3つ紹介していきます。
1.介護福祉士など介護業界の資格を持っている
介護福祉士やケアマネージャー(介護支援専門員)など、介護業界で即戦力が期待される資格を持っている人は、辞めても問題ありません。
なぜなら、介護業界は人手不足であるうえ、資格を保有している人材は即戦力になるため、貴重な存在だからです。
さらに、一般的に、中途採用が厳しいとされる50代以上の人でも、有資格者であることは、好条件で転職できる可能性があります。
介護業界に転職する予定であるなら、自身の経験やスキルをアピールできるので、より働きやすい環境を探すことができるといえます。
2.年齢が30代までである
20〜30代の若手の人は、転職に有利であると考えられます。
理由は、介護業界は体力が必要とされる職場が多くあるからです。
さらに、若い人は仕事を覚えるスピードも早いと期待されるので、多くの施設で積極的に採用しています。
3.1年以上の勤務経験がある
介護職として一定期間働いていた経験がある人は、その経験を評価されやすいといえます。
一定期間とは、目安は1年以上です。
例えば、2~3ヵ月で辞めてしまうと、転職活動の際「またすぐに辞めてしまうのでは」と評価されてしまう可能性が高いです。
さらに、1年以上の経験があれば、介護スキルも身についているので、実務的にもアピールできます。
⭕️実際に辞めて成功した人の体験談
それでは、実際に辞めて転職した人の体験談を紹介します。
今の自分と照らし合わせてみてください!
給料が上がって、生活にゆとりができた
前職は3年勤務しましたが、全く昇給がなくて、経済的に厳しかったので辞めることを決めました。
現職では、前職の勤務経験を評価してもらうことができて、収入面を改善することができました。生活にゆとりが生まれ、精神的にも楽になりました。
人間関係のトラブルがなくなり、楽になった
以前は老健で働いていました。職場の人間関係でストレスがたまって、胃薬を飲み続けていました。結局自律神経が乱れ、体調を崩すまでになってしまいました。
現在は、訪問ヘルパーとして働いています。施設勤務だった頃と比べると、人間関係のストレスは激減。収入も減少しましたが、体調が良くなったので良かったと思っています。
以上のように、辞めて転職したことで、経済的に楽になったり、精神的に楽になったりできている人は、辞めて成功した事例といえますね。
辞めるデメリットは?理由4選
令和4年度 介護労働実態調査結果でわかるように、介護職の離職は、まずはじめの1年が大きなハードルのひとつといえます。
では、辞めたらどんなデメリットがあるのでしょうか。
はじめの1年未満で辞めた場合のデメリットについて説明していきます。
1.転職活動に悪影響を及ぼす
入職して数日や数週間、数ヶ月で辞めてしまうことを「早期離職」といいます。
早期離職してしまうと、次の転職活動時、応募先の施設の採用担当者から「採用しても、またすぐにやめてしまうのではないか?」というマイナスの印象を与えてしまいがちです。
マイナスの印象を与えないためには、転居などのやむを得ない理由や、誰でも聞いたら仕方ないと思えるような退職理由が必要になります。
ですから、早期退職は転職活動する際に不利になるのです。
2.スキルが身につかないので待遇が改善しにくい
介護職を早く辞めてしまうと、介護に関するスキルが身につきません。そうなると、希望の給料や役職を得られず、待遇が改善されにくくなります。
そもそも、介護の仕事は無資格未経験からでもはじめられますが、経験を積んだり資格を取得することでスキルが身につくもの。
給料アップを目指すなら、ある程度の期間続けて、一定のスキルを身につけたほうが転職時の選択肢が広がりやすいでしょう。
転職後も介護の仕事を希望しているなら、ある程度のスキルを身につけるまで続けた方が良いと考えられます。
3.短期離職を繰り返しやすい
一度仕事を「短期で辞められる」という経験をすると、短期離職そのものに抵抗がなくなりやすくなります。結果的に、「辞めグセ」がついてしまう可能性も。
はじめは簡単に次の仕事が見つけられても、次第に転職先が見つからなくなります。
4.失業保険の条件にあてはまらない
短期に離職をしてしまうと、失業保険がもらえない可能性があります。
失業保険を受け取るには、
- 1.ハローワークに登録して求職活動を行うこと
- 2.離職前の2年間で12ヶ月以上雇用保険に加入していること
以上の2つの要件を満たす必要があります。
そのため、短期で離職してしまうと失業保険をもらえないリスクがあります。
❌実際に辞めて失敗した人の体験談
訪問介護から特養に転職したけれど
前職は訪問介護事業所に勤務していました。もっと収入が欲しくて、特養におよそ半年で転職することができました。
しかし、今までの職場は利用者宅に行ってサポートするのがひとりで行うことが多かったのに対して、施設ではチームワークが求められ、ついていけません。スキルがないと陰口をたたかれているようで、精神的にもつらくなってきています。
オープニングだから施設がキレイって憧れたけど
前職の施設の同僚と一緒に、オープニングの老健に転職しました。
前職の施設が老朽化でいつも修理ばかり必要だったのが嫌でした。オープニングなら施設が新しいからいいなと思って転職したのですが、何をするにもマニュアルがしっかりできていないため、毎日トラブルが発生。バタバタして、残業が増えてしまいました。体力的にもかなりつらくなっています。
ここからは現役の介護福祉士であり、転職経験もある筆者が実際に退職を行なったことで得られた、
「これだけは最低限やっておけばよかった…」ということを紹介します。
覚えておいて損は1つもありません。
【準備が9割】退職を後悔しないために必須の3つの準備
「今の職場を辞めたい」と考えても、すぐに退職願を書くのは失敗のもとです。
勢いで辞めてしまうと、あとで後悔することになりかねません。
まずは、辞めると決めたら準備を始めましょう。転職は準備が9割です
ここでは、やっておくべき3つの準備を説明していきます。
1.転職サービスに登録する
働きながら転職活動をすることに抵抗のある人もいるかもしれません。しかし、退職前からより良い職場を探すことは珍しいことではありません。
売り手市場の今、求人は入れ替わりが激しく、転職を考えている人はあなただけではありません。
賃貸物件などと同じで並行して情報をチェックしないと高待遇の案件を見逃してしまいます。
逆に、退職してから転職先を探そうとすると、収入がない焦りから自分に合わない求人に手を出してしまう恐れも出てきます。
私は一度これで失敗をしています…
理想の職場に出会いやすくするためにも、最低でも2〜3社の転職サービスに登録しておきましょう。
私が実際に使ってみたものも含めて結局コレ!という転職サービスをまとめてので、一度目を通してみると良いかもしれません。
2.辞める理由を再確認してキャリアプランを明確にする
まずはどうして自分は辞めようとしているのか、その理由を再確認しましょう。再就職活動で、必ず聞かれるからです。
さらに、介護職としての自分の目標やキャリアプランを明確にすることも大切です。
例えば
- 〇年後にはケアマネージャーになりたい
- 〇〇の仕事をやりたい
など、自分の目標を具体的に説明できるようにすると良いでしょう。
こうすることで、転職活動で志望動機や自己PRを伝えるときに、採用担当者に良い印象を与えることができるからです。
3.介護スキルを磨く・資格を取得する
転職を決めたとしても、現在の職場で介護のスキルを磨くようにしていきましょう。
ひとつでも多くの介護知識を身につけ、経験を積んでおくことが大切です。
さらに、資格を取得するのもおすすめです。
再就職活動で自己アピールに有利に使え、仕事探しの選択肢が広がってきます。
資格手当等があり、給料アップも期待できます。
まとめ
本記事では、介護職の離職理由のランキングとその具体的な背景、
また転職先の選択肢、さらに辞めることで考えられるメリットとデメリットを、体験談を交えて解説してきました。
「介護職」という仕事は、「きつい・汚い・給料が安い」の3Kだという人もいます。
しかし、介護職の醍醐味は何といっても、「高齢者の『夢』をかなえる仕事」であるということ。
高齢者の一番近くで、高齢者の「〇〇したい」を実現するべく、きめ細かく支援していくことで、できるようになったことを一緒に喜び、励まし、感謝される…それが介護職のやりがいのはずです。
そんな素晴らしい仕事だからこそ、介護職で働くことを誇りに感じながら仕事をしていきたいもの。
ですから、自分に合った職場に出会うためにも、しっかりとキャリアプランを立てたり、転職サービスに登録したりと、準備をしていきましょう。
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