障害者施設の事例
施設名: 就労継続支援B型
利用者が特定の職員に対してきつく当たるようになった事例
対応者
対応者 作業(職業)指導員
対応者 男性
お相手
寝たきり度 J1
認知症の状況 Ⅰ
性別 男性
事例・対処法の要点まとめ
利用者が特定の職員に対してだけきつく当たるようになった。
きつく当たってしまう原因をさりげなく聞いた。原因となった言動を変えることで、態度は和らいでいった。
幼少期の複雑な親子関係により心身の状態を崩している場合があるので、背景を理解し配慮する。以前に聞いた話でも、もう一度丁寧に聞くことが重要。
トラブルが起きた背景
共同作業所内で、作業中や休憩時に、Kさんが職員のUにきつく当たる場面が見られるようになりました。
話の内容については特別に難しいものではなく、昨日に見たテレビ番組や音楽の話などでしたが、職員Uに攻撃的に話すというような雰囲気があり、職員Uが意見や感想を言うとすべてに反対、反論するという状態でした。
そしてある日、作業所の《来月の予定》というような話題で職員Uが話した時に、Kさんが語気を荒げて意見を言い出しました。
職員Uへのその反論がとても不自然で(反論すること自体が目的なので不自然で)荒々しくて他の利用者が困惑する状況になりました。
なのでその場は話題を替えて、後日に改めて私からKさんに声をかけました。
Kさんは普段は、他の仲の良い利用者と雑談して明るい社交性の持ち主でした。
きつく当たるのは職員Uだけでした。
そこでさりげなく「なぜ職員Uにきつく話してしまうのか」を探る感じで話してみました。
するとその答えがKさんの生い立ち、幼少期の体験にあることが分かりました。
Kさんは両親がとても教育熱心だったので、受験勉強をさせられた苦い経験がありました。
有名中学に入学するために小学生の頃からハードな受験勉強をさせられていたのです。
地元で有名な塾に通わされて、学校以外に夜に3時間ほど毎日勉強していたそうです。
家庭での話題は勉強を中心にしたものでした。
まだ幼なくて親に甘えたいのに受験勉強のことしか言ってこない親に失望して、やがて反抗的な態度を取ったという内容を私に説明してくれました。
職員Uもどちらかというと教育熱心で、共同作業所でも利用者がいる場で勉強の重要性を口にするタイプの人でした。
意識しなければ気にならない程度の教育に熱い人という感じですが、Kさんにとってはそれが自分の母親と重なったのです。
この推測については他の職員からも同意を得られたので、私から職員Uに事情を説明しました。
そして勉強以外にも価値のあるものは世の中にたくさんある、というような話を職員Uさんが利用者の前でされるようになりました。
その後は少しずつKさんの態度は和らいでいきました。
対応者の中での対応
Kさんが受験勉強をさせられた経験については、それまでに本人から聞いたことはありました。
しかし今回の件で改めて聞いた時には、母親との関係性についてまで確認が出来ました。
その確認によって職員Uへの不満の原因が分かったのは良かったと思います。
また、Kさんはかなり理屈っぽい話し方をされるので(会話が論理的過ぎて相手を疲れさせる傾向がある)そういった話し方に対応できたのも良かったのかも知れません。
《職員Uに対して、不満や怒りの感情は持つべきではない》という思いを論理立てて説明したらその日以降、少しずつですが態度を改めてくれたからです。
今後同じ事例が起きた時の対処法
幼少期の複雑な親子関係によって、心身の状態を崩された利用者もおられます。
そういったことを理解して、配慮して接することでトラブルを事前に防げると思います。
今回のように職員が事前に把握していたつもりだったのに、実際には利用者にとって更に深刻な体験であったという事もあります。
ですから何か問題が起こった時には、以前に本人から聞いた話でも《もう一度、丁寧に話を伺う》という姿勢が必要に思います。
また職員の考え方や態度について利用者から不満が出た場合には、職員同士できちんと話し合いを行い、改善策を一緒に考えていく方が良い結果を生むと思います。