障害者施設の事例
精神障害の方が引っ越しへの不安で鬱症状が悪化した事例

事例データ
投稿者
対応者 作業(職業)指導員
性別 男性
お相手
性別 女性
Aさんは約5年共同作業所に通われていました。
鬱病をお持ちでしたので調子が悪い日も有ったりはしたのですが、同世代の利用者と友達関係を築かれていたので、笑って過ごされている時間も多くありました。
ご両親や妹と同居されていたのですが、ある年の暮れに父親の仕事の事情で引っ越すことが急に決まりました。

翌年の3月中旬に引っ越すという事でしたので《今後のAさんの施設利用についてどうするのか》を職員である私が御本人や御両親と話し合いました。
Aさんの引っ越し先は隣りの県で、もし継続して通ったとしてもバスと電車を乗り継いで片道1時間半もかかる距離になります。(それまではバスで15分位の通所をされていました)
視線恐怖もあるAさんにとって、長時間のバスや電車の乗車は厳しいものがありました。
話し合いの結果、Aさんに継続して通っていただくことは困難なので、新たな施設に通うことになりました。

しかし、引っ越しの2ヵ月位前からAさんは鬱症状が酷くなり調子を崩されたのです・・・
引っ越しへの不安が原因でした。
10代の頃に体験された摂食障害の症状も見られるようになり、共同作業所を2週間ほど休まれました。
来所された時にAさんに私からもお声かけして《引っ越しや利用施設の変更については心配ない》という説明をしたのですが、Aさんの感じられているプレッシャーを軽減する事はなかなか出来ませんでした。
しかし、「施設の見学説明会」をきっかけにしてAさんは調子を少しずつ回復されました。
ご両親と施設を見たり、担当の職員から施設についての説明を聞くことで安心されたのです。(職員がAさんと同世代の女性だった事もあり安心された)
その後Aさんは無事に引っ越しをされて、4月から新たな施設に通い始めることが出来ました。
良かった点
望んでいない引っ越しによる利用施設の変更によって、Aさんはとても大きなプレッシャーを感じられました。
我々職員も不安と緊張により調子を崩されたAさんのことをとても心配しましたが、当初は良いケアの方法が見つかりませんでした。

しかし新たに通う施設の職員に私や所長から電話でご挨拶をさせていただいて、少しでもAさんの不安が和らぐように動いたのは良かったと思っています。
Aさんの性格や障害の内容、精神状況などを電話で丁寧に説明させていただきました。
このような引き継ぎによって、Aさんが快適に通い始めることが出来たのなら嬉しく思います。
改善点
家庭の事情による引っ越し、御両親の離婚や入院などが原因で施設利用者が調子を崩されるという事態はよくある事だと思います。
今回のケースは引っ越しでした。
引っ越しも利用施設の変更も問題なくスムーズに進められることは我々職員やご両親には分かっていました。
しかし利用者にとってはとても大きなストレスになっていたのだと思います。

職員は利用者の緊張や不安を少しでも解消できるように、常に利用者の目線に立ってケアしていく必要があると思います。
短時間だけ電車に乗る、人と軽く挨拶する。
そういった一般的に気軽にできる行動でも不安に感じたり、指が震えたりする利用者もおられますので最大限のフォローをしていただきたいです。
先輩福祉士からのコメント
なぜこのようなことが起きるの?
Aさんにとって、「住み慣れた環境」「安心できる日常」が急に崩されるという引っ越しは非常に大きなストレスですね。
特に、通所施設の変更や長距離通所という変化が、感覚過敏や視線恐怖などの特性を持つ方には耐え難い心理的負荷となり、うつ症状や過食などで体調を崩すきっかけになってしまったのでしょう。
分析とアドバイスは?
引っ越しや施設変更を控えた段階から、「予行演習」「段階的慣らし」を導入することが有効ですよ。 たとえば、引っ越し先施設の見学や短時間通所の体験を事前に行うことで安心感を育てましょう。 また、変化に対する不安を書き出す“不安リスト”を作成して、利用者と一緒に一つずつ対応策を立てておくこともおすすめです。 さらに、施設側間での丁寧な引き継ぎ、心理的フォロー体制を事前に整備しておくことが、安定した移行につながります。
参考文献
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引っ越しで適応障害に?原因と対処法、新環境に馴染むコツを徹底解説
https://yobouiryoukai.com/adjustment-disorder-changing-residence/ -
引越しに疲れるとストレスでうつ・体調不良になることも?原因や効果的な対策を解説
https://lucksite.jp/column/2023/03/19/moving-stress/